- ISO 4406は3段のコード(例:18/16/13)で、作動油1 mLあたりの≥4 µm、≥6 µm、≥14 µmの粒子数を表します。コードが1つ上がるごとに粒子数は倍増します
- 最も厳しいのはサーボ弁(16/14/11)で、ギヤポンプ系(20/18/15)より16倍高い清浄度が求められます。フィルターの選定を誤ると、精密な弁が少しずつ摩耗し、やがて使えなくなります
- フィルターの捕捉効率を示す本当の基準は孔径の数字ではなく、β値(β₁₀≥75、200、1000)です。β₁₀=200はシングルパスのろ過効率99.5%を意味します
- フィルターサイズの算定式:カートリッジ定格流量 ≥ システム最大流量 × 2(安全係数)。検討が不十分な選定は、それだけでカートリッジ寿命を50%縮めます
- オンラインパーティクルカウンタはISO 11171に基づく校正が必須です。未校正の読み値は、清浄度等級で2段階以上ずれることがあります
- 油圧の汚染:目に見えない設備の天敵
- ISO 4406の3段コードを読み解く:1 mLあたりの粒子数調査
- NAS 1638:米国規格の等級とISOとの対比
- 目標清浄度:油圧機器ごとに基準を設定
- β値の読み方:ろ過効率を正しく表す指標
- フィルター選定計算:流量 × 安全係数
- オンラインパーティクルカウンタの校正と実践的な配置
- よくある落とし穴:汚染管理の7つの盲点
- よくあるご質問
- 参考文献
油圧の汚染:目に見えない設備の天敵
作動油は一見きれいでも、1 mLの中に肉眼では見えない固体粒子が10万個以上潜んでいることがあります。これらの粒子はサンドペーパーのように、サーボ弁スプールの精密なはめあい面(すきまはわずか1–4 µm)、ピストンポンプの球面シート、比例弁の絞り通路を24時間休みなく削り続けます。固体汚染は油圧システムの故障原因の70–80%を占めます。これは誇張ではなく、世界の油圧機器メーカーが数十年にわたる事例を集計して得た結論です。
さらに厄介なのは、汚染には自己増幅する悪循環があることです。摩耗で金属粉が発生 → 金属粉が摩耗を加速 → さらに多くの金属粉が油路を汚染。いったんこの流れに入ると、システムは数か月のうちに「健全」から「重篤」へと急速に悪化します。しかも初期にはほとんど症状が現れません。弁の動作がときおり0.02秒遅れる程度にしか見えなくても、実はスプールのはめあい面がすでに数ミクロン摩耗している、ということがあるのです。
この目に見えない敵を管理するには、3つの道具が必要です。汚染度を定量化する共通言語(ISO 4406 / NAS 1638)、機器の要求に対応した目標清浄度の一覧、そして目標粒径を確実に捕捉できるフィルター(β値)です。本記事ではこの3つをつなげ、汚染度の測定からフィルター選定までの一貫した判断の流れを示します。
ISO 4406の3段コードを読み解く:1 mLあたりの粒子数調査
ISO 4406:2021は、作動油の固体汚染度を表す世界共通の言語です。3つの数値コード(cleanliness code、清浄度コード)で油中の粒子の状態を表し、形式はXX/YY/ZZです。
- XX:油1 mLあたり、粒径≥ 4 µm(c)の粒子数を表すコード
- YY:油1 mLあたり、粒径≥ 6 µm(c)の粒子数を表すコード
- ZZ:油1 mLあたり、粒径≥ 14 µm(c)の粒子数を表すコード
ここで(c)は、ISO 11171に基づいて校正した光遮断式パーティクルカウンタで測定した等価円直径(Equivalent Circular Diameter)であることを示します。この括弧は重要です。計数原理が異なると、読み値が1–2等級ずれることがあります。
| ISOコード値 | 1 mLあたりの粒子数範囲 | 感覚的な目安 |
|---|---|---|
| 24 | 80,000 – 160,000 | 重度の汚染、いつ故障してもおかしくない |
| 22 | 20,000 – 40,000 | 劣化が進行中、直ちに作動油とフィルターの交換が必要 |
| 20 | 5,000 – 10,000 | ギヤポンプ系で許容できる上限 |
| 18 | 1,300 – 2,500 | 一般的な油圧システムの目標 |
| 16 | 320 – 640 | 比例弁システムの要求値 |
| 14 | 80 – 160 | サーボ弁の基本要求 |
| 11 | 10 – 20 | サーボ弁の最も厳しい目標(≥14 µm区分) |
換算してみましょう。サーボ弁システムの目標(16/14/11)とギヤポンプ系の目標(20/18/15)を比べると、≥4 µmの区分で前者が許容する粒子数は後者の1/16です。これは小さな差ではなく、1桁以上の開きです。
NAS 1638:米国規格の等級とISOとの対比
NAS 1638は米国の航空宇宙工業規格で、ISO 4406より数十年早く制定され、米国系の設備、航空機の油圧、古い工場のシステムでは今も広く見られます。等級1–12で汚染度を表し、等級が高いほど汚れています。計数の基準は、油100 mLあたりの各粒径範囲(5–15 µm、15–25 µm、25–50 µm、50–100 µm、>100 µm)の最大許容粒子数です。
| NAS 1638等級 | ISO 4406コード(近似) | 代表的な用途 |
|---|---|---|
| NAS 3 | 13/11/— | 航空宇宙のフライト制御システム、EHVサーボ |
| NAS 5 | 15/13/— | 高精度サーボ油圧、CNC主軸 |
| NAS 7 | 17/15/— | 比例弁、一般的な精密油圧 |
| NAS 9 | 19/17/— | 一般産業用の油圧シリンダ、方向切換弁 |
| NAS 11 | 21/19/— | 低圧回路、重機 |
目標清浄度:油圧機器ごとに基準を設定
「万能な清浄度目標」は存在しません。機器によって粒子汚染への許容度は大きく異なり、その根本的な理由ははめあいすきまの大きさにあります。すきまが小さいほど、同じ大きさの粒子による摩耗は相対的に激しくなります。
β値の読み方:ろ過効率を正しく表す指標
多くのエンジニアは「何ミクロンのフィルター」という言い方でろ過精度を表しがちですが、この表現には致命的なあいまいさがあります。孔径は膜の物理的な寸法であり、実際の捕捉効率を示すものではありません。公称「10 µm」のフィルターでも、試験条件下で10 µm粒子を50%しか捕捉しない場合もあれば、99.9%捕捉する場合もあります。この500倍の差は、「孔径」だけでは見分けられません。
捕捉効率を本当に定量化できる指標はβ値(Beta ratio)で、ISO 16889のマルチパスろ過性能試験(Multi-Pass Test)で定義されています。
βx = 上流側粒子数(≥x µm) ÷ 下流側粒子数(≥x µm)
| β値 | シングルパスろ過効率 | 対応する用途 |
|---|---|---|
| β₁₀ ≥ 75 | ≥ 98.7% | 一般産業用油圧(ギヤポンプ、ベーンポンプ) |
| β₁₀ ≥ 200 | ≥ 99.5% | 精密油圧(比例弁、ピストンポンプ) |
| β₁₀ ≥ 1000 | ≥ 99.9% | 高精度サーボシステム(サーボ弁、EHV) |
| β₆ ≥ 200 | ≥ 99.5% at 6 µm | サーボシステムの補完(より微細な粒径までカバー) |
実際の選定では、β値の添字の粒径(β10など)を対象機器のすきまに合わせます。サーボ弁のすきまは1–4 µmなので、理論上はβ3またはβ5でなければスプールを直接保護できません。しかしシステムは循環しながら多段でろ過されるため、β10≥1000と高い頻度のフィルター交換を組み合わせれば、マルチパスの効果で同じく16/14/11を達成できます。
フィルター選定計算:流量 × 安全係数
流量仕様を誤ったフィルター選定の代償は高くつきます。実際の流量がフィルターの定格値を超えると、差圧が急上昇してろ材に過大な力がかかり、バイパス弁が強制的に開いて、汚染粒子がフィルターを素通りしてシステムに入り込みます。正しい選定式は次のとおりです。
選定するフィルターの定格流量 ≥ システム最大流量 × 2(安全係数)
安全係数を2とする理由は次のとおりです。作動油の粘度は温度によって大きく変化します(VG46作動油の20°Cでの粘度は60°Cの5倍)。フィルターは使用時間とともに徐々に目詰まりし、差圧が上昇します。さらにシステム流量は、過渡時(ポンプ起動時や複数シリンダの同時動作時など)にピークの衝撃を伴うことが少なくありません。これらの要因を重ね合わせると、2倍の安全係数は最低限の保障といえます。
| システム最大流量 (L/min) | 最低限必要なフィルター定格流量 (L/min) | 推奨フィルター仕様(参考) |
|---|---|---|
| 30 | 60 | DN25フィルター、定格60–80 L/min |
| 80 | 160 | DN40フィルター、定格160–200 L/min |
| 150 | 300 | DN50フィルター、定格300–400 L/min |
| 300 | 600 | DN65複式フィルター、1本あたり定格300+ L/min |
| 500 | 1000 | 3組を並列に設置、または大流量の産業用フィルターを採用 |
流量のほかに、次のパラメータも考慮する必要があります。
オンラインパーティクルカウンタの校正と実践的な配置
計測なくして管理なし。油圧システムの「健康診断ツール」は、オンライン光遮断式パーティクルカウンタ(Online Optical Particle Counter)です。作動油を細い光学セルに通し、通過する粒子1個ごとにレーザー光が遮られて生じるパルス信号を、粒径別に分類して計数する仕組みです。単純に聞こえますが、そこには致命的に重要な細部があります。校正です。
オンラインカウンタ配置のポイント
- サンプリング位置:システム回路の中で「システムの実際の状態を最もよく代表する点」に設けます。通常は、リターンラインのフィルター手前、またはポンプ吐出側の高圧ラインです。
- サンプリング流量の制御:カウンタの通液量は通常わずか20–200 mL/minのため、精密な絞り弁(バイパスサンプリング)でサンプリング流量を安定させ、気泡や過大な流速による計数誤差を防ぐ必要があります。
- 温度と粘度の補償:高粘度の油は40–50°Cまで加温してからカウンタに通さないと、正常に流れません。ヒーターを内蔵したカウンタもありますが、そうでなければプレート式熱交換器を別途設ける必要があります。
- 脱気:新しく補充した油やシステムのオーバーホール後は、油中に溶け込んだ空気が「大粒子」としてカウントされ、初期の読み値が高く出ます。システムを15–30分循環させて気泡を抜いてから読み取ってください。
- 校正周期:12か月ごと、または粒子計数5 × 10⁶回ごとにメーカーでの校正を推奨します。社内ではISO MTD標準粒子で自己検証を行います。
| サンプリング位置 | 利点 | 欠点 | 適用場面 |
|---|---|---|---|
| リターンライン(フィルター手前) | システム全体の汚染負荷を代表 | 圧力が低く、シールの確認が必要 | 一般監視の第一候補 |
| ポンプ吐出側(高圧ライン) | ポンプの摩耗粉を直接検出 | 高圧対応のカウンタハウジングが必要 | 重要ポンプの保護 |
| フィルター後(クリーン側) | フィルターの有効性を検証 | 読み値が低く、相対的にノイズが大きい | フィルター性能の確認 |
| タンクのサンプリング口 | システムの静的なベースライン | システムの動的な状態を代表しない | 作動油交換前後の比較 |
よくある落とし穴:汚染管理の7つの盲点
よくあるご質問
ISO 4406の「(c)」は何を意味しますか?無視してもよいですか?
無視できません。(c)は「calibrated」、つまりISO 11171に基づいて校正された光遮断式カウンタで測定した等価円直径を意味します。旧版のISO 4406:1987は2段コードのみで(c)の添字がなく、ACFTDで校正していたため、新版とは読み値が約1.5等級異なります。新旧規格の混用による誤判断を避けるため、現在の設備仕様書やフィルターメーカーの試験報告書では、一律にISO 4406:2021(3段コード、(c)付き)を使うべきです。
β値の表記β₁₀(c)とβ₁₀には違いがありますか?
違いがあり、しかも重要です。β₁₀(c)はISO 11171 / ISO 16889に基づき校正済みカウンタで測定したβ値で、現行の国際的な調達仕様における標準的な表記です。旧来の「β₁₀」は添字がなく、すでに使われなくなったACFTD試験粉体によるもので、両者の試験結果は直接比較できません。フィルターメーカーに問い合わせる際はβ₁₀(c)のデータを指定してください。そうすることで、異なるブランドの仕様を比較できるようになります。
システムの目標はISO 16/14/11ですが、実測値がずっと18/16/13のままです。短期間で下げる方法はありますか?
あります。ただし「オフラインろ過(kidney loop filtration)」と高効率フィルターの組み合わせが必要です。独立した回路を別に設け、タンク底部の油を低流量(メインシステムの5–10%)で連続的に抜き出し、β値の高いフィルターを通してから戻す方法です。システムの作動差圧の影響を受けないため、流速が遅く汚れ保持容量の大きいろ材を使うことができ、徹底した清浄化の効果が得られます。通常、24–72時間でISO等級を2–4段階下げることができます。
NAS 1638はすでに廃止されたのですか?
NAS 1638は1992年にARP 4205に置き換えられ、後者では14 µmの粒径区分の測定が追加されました。しかし、古い工場の設備文書、米国の航空宇宙分野、軍用規格のシステムでは、NAS 1638の等級表記が今も広く使われています。顧客から明確な指定がない限り、現在の調達ではISO 4406を優先して使うことを推奨します。そのほうが双方のコミュニケーションにあいまいさが生じません。
フィルターの差圧がどのくらいになったら交換すべきですか?
一般に、各メーカーのインジケータは6–10 bar(システム設計による)に設定されており、これを超えると交換表示が作動します。ただし差圧値そのものは作動油の粘度や流量によって大きく変わり、コールドスタート時の差圧は暖機後の3–5倍になることもあります。より確実な管理方法は、差圧だけを見るのではなく、「累積使用時間+作動油の粒子計数のトレンド」を同時に追跡し、組み合わせた交換基準を設定することです。
作動油の交換とフィルター交換は、どちらが重要ですか?
どちらも欠かせませんが、優先順位は異なります。フィルター交換のほうが優先度は高いです。汚れたフィルターはろ過効果を失うだけでなく、差圧によってリークし、捕捉済みの汚染物をシステムに放出するおそれがあるためです。作動油そのものがきれいに保たれ(粒子計数で確認)、酸価と粘度が正常であれば(性状分析で確認)、作動油の交換周期を延ばせます。しかし粒子計数が基準を超え続けている場合は、作動油を交換する前に汚染源を突き止める必要があります。そうしなければ、新しい油に替えてもすぐに劣化してしまいます。
参考文献
- ISO 4406:2021 — Hydraulic fluid power: Method for coding the level of contamination by solid particles
- ISO 16889:2022 — Hydraulic fluid power filters: Multi-pass method for evaluating filtration performance
- ISO 11171:2020 — Hydraulic fluid power: Calibration of automatic particle counters
- Pall Corporation — Hydraulic Contamination Control Handbook
- HYDAC — High Pressure Filter Technology and Selection Guide
- PMC — Hydraulic system contamination monitoring: A review of sensing technologies
- MDPI Machines — Online Oil Contamination Monitoring in Hydraulic Systems: Methods and Challenges
