- カタログに書かれたLPMだけを見て本数を決めてはいけません。それは「水・20°C・負荷ゼロ」での理想値です
- 実際の流量はDarcyの法則 Q = ΔP × A / (R × η) に従います。粘度が2倍になれば、流量はそのまま半分になります
- 70%エタノールの粘度は水の4倍、シロップでは1000倍以上になることもあります。サイジングに水のデータをそのまま当てはめるのは厳禁です
- 実務のサイジングは5ステップ:流量を算出 → 粘度を調べる → 許容ΔPを決める → メーカーのflow curveと照合 → 50–100%のsafety marginを加える
- 本記事では3つの実例(製薬100 LPM、半導体50 LPM、食品シロップ200 LPM)で計算過程を示します
- 「流量不足」はフィルター選定で最も多い失敗
- Darcyの法則をざっくり理解:流量を決める4つの要素
- 粘度の見えない落とし穴:70%エタノールは水の4倍遅い
- 差圧曲線の読み方:カートリッジの交換時期
- 5ステップのサイジング計算(実例付き)
- 3つの実例比較
- Safety margin:なぜ50–100%のオーバーサイズが必要なのか
- よくある誤解:公称流量で割るだけでよい?
- よくあるご質問
- 参考文献
「流量不足」はフィルター選定で最も多い失敗
ライン立ち上げの日に最も聞きたくない一言が、「フィルターの下流で圧力が上がらず、生産量が3割落ちている」です。エンジニアの9割は、まずフィルターの故障、孔径が小さすぎる、メーカーが悪い、と考えます。しかし実際には多くの場合、フィルターは壊れておらず、当初のサイジングが間違っていたのです。
カタログに「10インチ PES 0.22 µm、clean water flow 30 LPM @ 0.1 bar」とあれば、エンジニアは30 LPMという数字を見て、このカートリッジで一日中30 LPM流せると考えます。ところが実際のラインで70%エタノール、0.5 mPa·sの緩衝液、5 ppmの微粒子を含む処理液を流すと、流量はいきなり12 LPMまで落ち込み、さらに2時間後には目詰まりで差圧が1 barまで上昇し、カートリッジ交換が必要になることもあります。
本記事では、フィルターのサイジングを理論(Darcyの法則)から実務(メーカーのflow curveの読み方)まで一通り解説します。最後に3つの実例――製薬の水溶液、半導体のSC1、食品のシロップ――の計算過程を紹介します。それぞれサイジングの考え方がまったく異なります。
Darcyの法則をざっくり理解:流量を決める4つの要素
メンブレンは、微細な孔が無数にある多孔質媒体です。多孔質媒体中の流体の流れはDarcyの法則に従います。
この式から、コントロール可能な4つの変数が見えてきます。
- 差圧 ΔP:高いほど流量は増えますが、使える範囲には限りがあります。初期ΔPは0.1–0.2 bar以下、最終的な運転ΔPは0.7–1.0 bar以下が推奨です。それ以上にするとケークが圧密され、かえって流量が急激に低下します。
- ろ過面積 A:10インチを20インチに替える(面積はほぼ2倍)と、流量もほぼ倍増します。並列で1本追加するのも同じ理屈です。サイジングの核心は、このAを調整することです。
- 抵抗 R:膜自体の抵抗(一定)+ケークと目詰まりによる抵抗(時間とともに上昇)で構成されます。処理液中の微粒子が多いほど、また組成が複雑なほど、Rは速く上昇します。
- 粘度 η:流体固有の物性で、温度にも大きく左右されます。水は20°Cで1.00 cP、40°Cでは0.65 cPに下がり、5°Cでは1.52 cPに上がります。
この4つの変数のうち、エンジニアが最も見落としがちなのが粘度と面積です。次のセクションでは粘度の落とし穴を取り上げます。
粘度の見えない落とし穴:70%エタノールは水の4倍遅い
同じ10インチPESカートリッジでも、流体をエタノール、緩衝液、シロップに替えると、流量は数倍も変わります。以下は代表的なプロセス流体の粘度(20°C)です。
お気づきでしょうか。70%エタノールの粘度は純水の4倍です。同じカートリッジ、同じ0.1 barの差圧でも、70%エタノールの流量は水の約1/4しかありません。水のflow rate表でエタノールプロセスをサイジングすれば、ラインは確実に詰まります。
差圧曲線の読み方:カートリッジの交換時期
フィルターの「差圧曲線」も、サイジングのもう一つの鍵です。正常に稼働しているカートリッジは、使用開始から寿命を迎えるまでに、膜間差圧が3つの段階を経ます。
- 段階1(安定期):使用開始から、ろ過量がまだ少ない期間です。ΔPは初期差圧0.05–0.1 bar前後で推移し、曲線はほぼ水平です。
- 段階2(線形上昇期):ケークが徐々に堆積し、ΔPは0.3–0.5 barまでゆっくりと直線的に上昇します。この区間こそ、フィルターが本当に「稼いでいる」稼働領域です。
- 段階3(急速閉塞期):ΔPが初期差圧+0.7 bar(約10 psi)に達すると、細孔の多くが閉塞し、曲線は指数関数的に上昇し始めます。これが業界で一般的なカートリッジ交換のタイミングです。
実務上、交換のサインは2つあります。
5ステップのサイジング計算
Step 1 — プロセス流量を確認する
プロセス設計者から目標流量を入手し、必ず単位をそろえます。よく使う換算は 1 m³/h ≈ 16.67 LPM ≈ 4.40 GPM です。「ピーク」流量と「平均」流量は区別してください。サイジングは一般にピーク流量を基準にします。
Step 2 — 粘度を調べる(プロセス運転温度で)
25°Cの標準粘度ではなく、実際のプロセス運転温度での粘度を使います。混合流体(溶剤、糖、塩、バイオマスを含むもの)の場合は、実測するか、処理液のサプライヤーに提供を依頼するのが確実です。データがない場合、水溶液であれば「重量百分率による加重平均」で概算できます。
Step 3 — 許容できる初期ΔPを決める
液体フィルターのサイジングでは、多くの場合初期ΔPを0.1–0.2 bar(1.5–3 psi)に設定します。0.1 bar未満では流量が小さすぎ、0.2 barを超える場合は本数が不足しており、目詰まりが非常に早く進みます。
Step 4 — メーカーのflow vs ΔP曲線と照合する
どのフィルターメーカーも「水流量 vs 差圧曲線」(メーカーサイトの技術資料 / data sheet)を提供しています。設定したΔPにおいて、10インチカートリッジ1本で水を何LPM流せるかを読み取り、Darcyの法則に従って換算します。
Step 5 — safety marginを加えて本数を決める
必要流量を「実際の流量」で割って最小本数を求め、さらに1.5–2.0のsafety marginを掛けます。例:50 LPMが必要で、1本あたりの実流量が7.5 LPM → 50 / 7.5 = 6.67 → 切り上げて7本 → 50%のマージンを加えて11本。
3つの実例比較
事例A — 製薬 WFIの除菌ろ過、100 LPM
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| プロセス流量 | 100 LPM(ピーク) |
| 流体 | WFI(注射用水) |
| 運転温度 | 20–25°C |
| 粘度 | 1.0 cP |
| カートリッジ選定 | 10インチ PES 0.22 µm(親水性、1本あたりの水流量 ~30 LPM @ 0.1 bar) |
| 1本あたりの実流量 | 30 LPM × (1/1) = 30 LPM |
| 必要本数 | 100 / 30 = 3.33 → 4本 |
| 50%の安全マージンを加算 | 4 × 1.5 = 6本(実務では4本+予備1本) |
| 推奨構成 | 10インチ PES 0.22 µm×4本、並列ハウジング |
事例B — 半導体 SC1(NH₄OH/H₂O₂)の薬液ろ過、50 LPM
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| プロセス流量 | 50 LPM |
| 流体 | SC1(NH₄OH:H₂O₂:H₂O = 1:1:5) |
| 運転温度 | 70–80°C |
| 粘度(70°C) | ~0.5 cP(高温で粘度が低下) |
| カートリッジ選定 | 20インチ PFA-housed PTFE 0.05 µm(強アルカリ・高温に対応) |
| 1本あたりの水流量 | ~25 LPM @ 0.1 bar(孔径が小さく流速は低め) |
| 1本あたりの実流量 | 25 × (1/0.5) = 50 LPM(水より粘度が低いため、むしろ速い) |
| 必要本数 | 50 / 50 = 1本 |
| 100%の安全マージンを加算 | 2本(半導体の高純度用途ではより大きなマージンを推奨) |
| 推奨構成 | 20インチ PTFE 0.05 µm×2本、並列PFAハウジング |
事例C — 食品 50%シロップのろ過、200 LPM
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| プロセス流量 | 200 LPM |
| 流体 | 50% シロップ(果糖 / ショ糖) |
| 運転温度 | 50°C(加熱して粘度を低下) |
| 粘度(50°C) | ~6 cP |
| カートリッジ選定 | 30インチ PPデプスカートリッジ 1.0 µm |
| 1本あたりの水流量 | ~70 LPM @ 0.2 bar |
| 1本あたりの実流量 | 70 × (1/6) = 11.7 LPM |
| 必要本数 | 200 / 11.7 = 17.1 → 18本 |
| 50%の安全マージンを加算 | 18 × 1.5 = 27本 |
| 推奨構成 | 30インチ PPデプスカートリッジ×27本。温度を60°Cまで上げて粘度を下げれば、使用本数を約25%削減可能 |
Safety margin:なぜ50–100%のオーバーサイズが必要なのか
前の4ステップをどれほど正確に計算しても、実際のライン運転では「計算に含まれていない」要因が数多く発生します。
業界で一般的なオーバーサイズ率は次のとおりです。
- 清浄な水溶液(WFI、緩衝液):50%のマージンで十分
- 微量の微粒子を含む処理液(API溶液、製薬の前処理):75–100%のマージン
- 懸濁物質を含む / foulingの激しい処理液(シロップ、発酵液、油脂):100–200%のマージン。前段の粗ろ過との併用を推奨
- 半導体用高純度薬液:100%以上のマージン+N+1冗長。endurance testも要求
よくある誤解:公称流量で割るだけでよい?
よくあるご質問
Darcyの式の「抵抗R」はどうやって調べればよいですか?
実務ではRを直接計算する必要はありません。メーカーがRとAを「flow vs ΔP曲線」に織り込んで提示しているからです。必要なのは、(1) 該当する孔径・仕様の曲線を探す、(2) 目標とするΔP(通常0.1 bar)で流量を読み取る、(3) 粘度比で実際の流量に換算する、の3つだけです。より厳密な理論計算が必要な場合は、Coulson & Richardson『Chemical Engineering Vol. 2』第7章 filtrationを参照してください。
フィルターの「終点差圧」はなぜ0.7 barで、1.0 barや2.0 barではないのですか?
業界の経験値です。ΔPが初期値+0.7 bar(約10 psi)に達した時点で、ケークはすでに圧密され、細孔はほぼすべて閉塞しています。それ以上使い続けても電気代が無駄になるだけで(ポンプの出力を上げる必要がある)、ケークがはがれて下流を汚染するおそれもあります。0.7 barは、流量・エネルギー消費・製品品質の最適なバランス点です。一部の高耐圧設計では2 barまで使えますが、寿命末期は流量がすでに低く、割に合いません。
ポンプ圧を上げて流量を増やしてもよいですか?
ある程度までは可能ですが、推奨しません。ΔPを上げれば最初は確かに流量が増えます(直線的に比例)が、ケークの圧密が早まり、フィルター寿命が短くなります。また、ΔPが高すぎると処理液中の変形しやすい粒子(タンパク質凝集体、コロイド)がメンブレンを透過し、かえって下流を汚染するおそれもあります。正解はカートリッジの本数を増やす(面積Aを増やす)ことであり、ΔPを上げることではありません。
10インチを20インチに替えると、流量はちょうど2倍になりますか?
ほぼそのとおりです。20インチカートリッジの有効ろ過面積は10インチの約2倍(2段を連結した構造)なので、同じ差圧での流量は約1.9–2.0倍になります。30インチは約3倍、40インチは約4倍です。大型化のメリットは、設置スペースが小さく配管がシンプルになること。デメリットは、1本あたりの廃棄コストが高く、重くて取り扱いが大変なことです。
flow vs ΔP曲線は直線ですか?
低圧域(ΔP < 0.3 bar)ではほぼ直線で、Darcyの法則 Q ∝ ΔP に従います。高圧域では直線から外れます。膜自体がわずかに変形し、細孔が処理液によって圧密されるためです。したがってサイジングは必ず直線域(0.05–0.2 bar)で行うことで、予測が正確になります。
微量の気泡を含む処理液では、サイジングに影響がありますか?
あります。気泡がメンブレンの一部をふさぎ(特に親水性膜は気泡が引っかかりやすい)、有効流量が20–40%低下することがあります。フィルターの上流にinline degasserや脱気タンクを設置することを推奨します。高純度薬液ラインでは通常、標準装備です。
複数のカートリッジを並列にした場合、流量は均等に分配されますか?
必ずしもそうではありません。配管が非対称(配管長が異なる、継手の抵抗が違う)だと、各カートリッジのΔPが異なり、一部だけ先に目詰まりし、ほかはまだきれいという状態になります。ハウジングの設計ではreverse returnやmanifoldによる対称配管を採用し、各カートリッジの差圧を均一にする必要があります。そうしなければ、サイジングが正しくても実際の性能は目減りします。
参考文献
- Pall Corporation — Filter Selection and Sizing Guide
- Cytiva — Process Filtration Sizing & Application Notes
- Sartorius — Process Filtration Technical Documents
- Cobetter Filtration — Flow Rate & Pressure Drop Charts(半導体 / 製薬用液体フィルターのサイジング)
- Merck Millipore — Filtration Sizing Tools (Filter-V Plus)
- 3M Purification — Liquid Filtration Cartridge Selection Guide
- Coulson & Richardson — Chemical Engineering Vol. 2, Chapter 7: Filtration
- Engineering Toolbox — Dynamic Viscosity of Common Fluids
- SEMI Standards — F58 Liquid Filter Test Methods(半導体プロセス用フィルターの試験規格)
- PMDA / FDA Guidance — Sterile Filtration of Liquid Pharmaceuticals (PIC/S Annex 1 対応)
